第54章 嫉妬
「申し訳ありません。私は余所の者なので此方の土地勘が無いんです。」
そう言っても何故か食い下がる。
その男は道に迷ってなどいなかったのだ。
そして、『少しで良いから案内をしてくれ。』と男が菫の手を掴んだ時、ザーッと何かが地を滑る音がした。
杏「菫ッ!!!」
街に着き、足を滑らせて減速した杏寿郎はすぐに菫を見付け、額に青筋を浮かべながら二人の元へ走って来た。
「……杏寿郎さん…?何故こちらに…、」
菫が知らぬ男に手を触らせながらそんな抜けた事を言うので、杏寿郎は更に青筋を増やした。
杏「何時まで握っている。俺の妻に気易く触れないでくれ。」
杏寿郎の迫力に固まってしまっていた男は、そう言われてやっと菫から手を離して逃げ去った。
一方、菫は杏寿郎が笠を握り締めているのを見てハッとした。