第54章 嫉妬
その頃、隣街まで走った菫は歩き慣れない街をぼんやりとしながら歩いていた。
(勤務時間にこんな風にぶらぶらして…罰が当たるかしら……。)
そんな事を考えていると子供の泣く声が聞こえてきた。
其方に目を遣ると店番をしている女性が背負った子供をあやしている。
「……。」
菫はその子供を見ながら、まだ見ぬ自身と杏寿郎の子供に想いを馳せた。
(髪と瞳は杏寿郎さんに似るのかしら…。きっと、ううん、絶対に杏寿郎さんは素敵な父親になって下さるわ…。)
そう思うと嫉妬が溶けて消えていく。
家族を育めるのだと思ったら、他の女性の頭を撫でた事などどうでも良くなったのだ。
(……帰ろう。早く杏寿郎さんの顔を見たい。)
そうして菫がくるりと来た道を振り返った時、一人の男が道を尋ねてきた。