第54章 嫉妬
杏「………………。」
杏寿郎がその事に気が付いたのは、いつも完璧なタイミングで現れる菫が冷えた茶をいつまで経っても出して来ない事を不審に思った後だった。
杏寿郎は玄関に置きっぱなしになっていた笠を掴むと門の外へ飛び出した。
杏(お館様が除隊の際にひと悶着あったと仰っていた…!恐らく俺の屋敷の位置は知らなくても帰る方角ぐらいは把握されている!!)
杏寿郎が酷い焦燥感を抱いた理由は、菫に暴行を働いて除隊処分になった杉本元隊士が菫を見付けるかもしれないからであった。
彼は粘着質な性格でプライドが高い。
菫に鉢合わせれば何をするか分からない。
鉢合わせるどころか探している可能性もある。
杏寿郎の頬に冷や汗が伝った。
杏(……いない。)
街を隈なく探したが菫が見当たらない。
嫌な音を立てて跳ねる心臓を抑えながら林の中も探したが、それでも見当たらない。
杏寿郎は汗ばむ手を固く握って蝶屋敷の方角へ進んだ。
杏(危険なのは蝶屋敷の近くだ。あちらに近い街を先に探した方が良い…!)