第54章 嫉妬
(…胸が苦しい。もっと普通に働かないと。仕事をしないと。今は全部忘れないと。)
菫の無表情は拗ねていたから表れたものではない。
ただ感情を切り離してきちんと仕事をする為のものであった。
しかし、解消できずに我慢してしまっている時点でそれはよろしくない事だ。
頼る事が下手な菫はそれに気が付けなかった。
(皆様が午後の鍛錬を始めたら少し先の街まで行ってみようかしら。きっと気分を切り替えられるわ。)
杏寿郎はそんな決意をしている菫をじっと見つめ、相変わらず美味しいご飯を頬張った。
杏「…菫。話がしたい。」
「申し訳ありません。その前に買い物へ行かせて下さいませ。そうしたらきっと全て上手くいきます。」
杏寿郎は菫が既に解決法を考えてくれていた事にほっとした。
仲を取り戻したいと積極的に前向きに考えてくれる姿勢が嬉しかったのだ。
だから快く送り出してしまった。
菫はまだ本調子ではない。
それ故に杏寿郎の屋敷に来てから一度も忘れなかった笠を被り忘れ、離れた街へと出掛けてしまったのだった。