第49章 進めたい関係
静かな部屋に菫の背中を撫でる音だけが響く。
一度は酷く自身の行動を恥じた菫だったが、今は杏寿郎の手のお陰で持ち直した。
―――すりっ
一定のリズムでゆっくりと撫でられている内にぽかぽかとした温かい気持ちが生まれ、そして矛盾するように心臓が煩くなっていった。
菫は杏寿郎より何歩も遅れて、漸く今のシチュエーションがまずい事に気が付いたのだ。
(婚約の申し入れの衝撃が大き過ぎて失念していたわ…。)
菫は自身を包み込む杏寿郎の体の大きさを感じながら、改めて杏寿郎が男である事を実感した。
それと共に頬が熱を持つ。
(それなのに…、私…、)
忘れていた恥が戻って来る。
この時代、杏寿郎達が生きる大正の世はプラトニックな恋愛が主流だ。
夫婦でないのなら口付けなどは以ての外、抱擁でさえ滅多矢鱈とするものではない。
菫は杏寿郎にどう思われたのか知りたくなった。