第49章 進めたい関係
(以前、拒みはしないと仰ったわ。私から口付けたら喜んで下さるのかしら…。)
しかし杏寿郎は笑顔のまま固まり、汗を流して喉をごくりと鳴らすだけだ。
返事を促すように菫が腕の中で少し腰を浮かして顔を近付けると、やっと不自然な表情を崩し、目を合わせて僅かに眉尻を下げた。
杏「…君は何も感じないのか。俺に合わせているだけで別にしたい訳でもないのだろう。」
その言葉に菫は意表を突かれ、ぱちぱちと瞬きをする。
姉モードに入っていた菫は自身がどれ程大胆になっているのか、自覚がなかったのだ。
しかし真っ直ぐに指摘されたら流石に我に返る。
杏寿郎は真っ赤になってすとんと腰を下ろした菫を見て、菫が何とも思わない訳ではないのだと確認出来て安心した。
杏「したくない訳ではない。だが、ゆっくりで良い。婚約出来たからと言って、昂ぶった気持ちに任せて君に手を出したくはない。」
本当はせっかちな自身を抑え、そう言いながら腕の中で恥じている菫の背を撫でる。
菫はビクッと体を震わせた後、再び杏寿郎にしっかりと身を寄せて頷いた。
「…ありがとうございます。」
そう赤い顔で礼を言いながら、菫はこっそり微笑んだ。
(こういう所も杏寿郎さんの魅力の一つだわ…。)