第13章 探り
「…歩く事が難しそうであれば無理に立ち上がりません。体が元に戻るまで時間を取って休みます。」
杏寿郎を尊敬する気持ちが強くなると共に、菫は余裕を取り戻した。
「もし炎柱様がお風呂からお上がりになられても此処から動いていなければ、その時にお助け下さい。」
杏寿郎は淡々と話す菫を大きな目で見つめると、少し間を空けてから『分かった。』と言った。
杏(信頼関係は築けているのだろうが、距離はなかなか縮まらないな。)
そう思うとふと釦に掛けた手が止まる。
杏「……まずは下の名を聞き出すところから始めよう。」
―――
(……よし。)
菫は宣言通り無理はせず、きちんと休んで壁に頼らず立てる事を確認してから歩き出した。
(お食事を温め直さないと。)
そう思いながら炊事場へ急ぐ。
今晩の芋は味噌汁に入っていた。
それを口に入れた時の杏寿郎の反応を想像すると胸が温かくなる。
(先程は随分と迷惑をお掛けしてしまったし、炎柱様のお椀に私の分のお芋も全て入れてしまおう。)
そんな事を思いながら炊事場へ入った菫の口角が自然と上がる。
杏寿郎が風呂から上がって菫の様子を確認しに来る頃には夕餉は温まっているだろう。