第13章 探り
「大した事ではないのです。それより、それより…、」
頭が真っ白になってしまった菫は風呂が沸いている事さえ忘れて言い淀んだ。
杏「清水。」
静かな声にハッとして視線を上げると、杏寿郎は穏やかな表情を浮かべていた。
杏「怖がらないで良い。何もしない。」
「…あ……、」
気が抜けた菫はすとんとその場に膝をついた。
慌てて立ち上がろうとするも足腰が立たない。
杏「む、腰を抜かしてしまったのか。」
杏寿郎はそう言うと歩み寄って手を差し伸べた。
菫は案の定、自身の為に差し出されたその手を見つめて固まった。
「ありがとうございます。ですが…流石にお体には触れられません……。」
そう言うと菫は壁に寄り掛かりながら自力で立ち上がる。
杏寿郎はその頑なな様子を見て『むぅ。』と小さく唸った。
杏「部屋までは送らせてくれ。気掛かりだ。」
心から尊敬する杏寿郎がそう申し出るであろう事は分かっていた。
菫はその温かい心に触れると改めて杏寿郎を尊く思った。