第49章 進めたい関係
杏寿郎は菫に何を話そうとしているのかを悟られたのだと察すると、せめてもと思って乱れた掛け布団を畳み、無駄な足掻きだと分かりつつ場を整えた。
杏「このような場で言う事を許してくれ。今言いたい。」
そう言うと膝を進め、緊張した面持ちの菫の手を取った。
ぎゅっと握ると菫が僅かに握り返す。
それにどうしようもなく胸が一杯になった。
杏「菫さん、俺と一緒になってくれ。」
飾り気の無いシンプルな言葉を聞くと、菫は薄く口を開き、震える短い息を吐いた。
杏「貴女より歳下だが頼りなく感じさせないよう全力で努力する。」
それを聞いて応えるように握り返す手に力を込める。
杏寿郎はそれが受け入れの意志なのだと察すると、目を閉じ、眉を寄せながらぐいっと手を引いて菫を抱き寄せた。
杏「職業柄、心配させる事もあるだろう。だが、必ず生きて君の元へ戻る。後悔させない。」
菫は杏寿郎の胸に優しく頬擦りをすると抱き締め返し、その熱い背中を撫でた。
「…こんな私で良ければどうぞ貰って下さいませ。」
杏寿郎が切望していた言葉はあっさりと返ってきた。
あっさり過ぎて気が抜け、杏寿郎はくつくつと笑い出した。
「杏寿郎様?」
いつものはっきりとした笑い声とは異なる笑い方に菫は首を傾げる。
すると、杏寿郎はぎゅうっと強く抱き締め直してからバッと体を離し、菫の顔を覗き込んだ。
その瞳は大きく開き、きらきらとしている。
(…綺麗。)
菫が状況を忘れてつい見惚れていると、杏寿郎は隙だらけの額に口付けを落とした。
「…っ」
杏「君が俺の目を長く見るのは珍しいな!少々気恥ずかしい!!」
杏寿郎はそう言うと眉尻を垂らして幸せそうに笑った。