第44章 青い彼岸花
杏寿郎の大きな目に見つめられた男は一歩後退って首を横に振った。
男「言い伝えがあるだけだ。『夜半に花の家を訪るる者をあるじすべからず。』と。」
「歓迎するもしないも、そもそも今は昼間です。」
菫がそう言うと村人はハッとしてから肩の力を抜いた。
俊彦はその様子に面食らいながらも再び口を開いた。
俊「私は花岡家の親戚である立花家の長男、立花俊彦です。こちらは私の許嫁の姉の菫さんに…、」
俊彦は杏寿郎の紹介に少し困った。
俊「…菫さんの許婚の杏寿郎さんです。」
杏「……。」
「……。」
杏寿郎と菫がギクッと体を揺らしたので村人は少し怪しんだが、二人が互いに頬を染めているのを確認するとあながち間違いではないのだろうと判断した。
男「親族の方でしたか。それなら話は別だ。案内しましょう。あの家に辿り着くにはそれしか方法が無い。」
途端に友好的になった村人に戸惑いつつ、まだ十分に休憩を取れていない俊彦は内心悲鳴を上げながら男に続いた。