第43章 対話
杏「君が話を聞いてくれて、希望を口にしてくれて、俺は気持ちが楽になった。父上と俺との関係は変わっていない筈なのに、問題は小さく希望は大きくなった気がする。」
「…そう思って頂けたなら私も嬉しいです。」
菫がそう言って柔らかく微笑むと、杏寿郎は体を横向きにさせたくなる気持ちをぐっと堪えた。
杏(なかなかにもどかしいな。)
「…………。」
菫は杏寿郎の眉が寄ったのを見て『強がりを言っていたのかと知れない。』と勘違いすると、ベッドから落ちそうな程近付いて杏寿郎に手を伸ばした。
自身が触られるとは思っていなかった杏寿郎の体が動揺で揺れる。
(……届かない。)
菫は頭を諦めて杏寿郎の頬を優しく撫でた。
「大丈夫です。もう大丈夫ですよ。」
元々姉気質の菫は杏寿郎を宥めるように優しく優しく声を掛けた。
そして兄気質の杏寿郎はそれをこそばゆく思った。
杏(……弟のように思っていないと良いのだが。)
杏寿郎は自身が菫より二つ歳下である事に若干のコンプレックスを抱いていた。
そんな気持ちに気付かない菫は杏寿郎の顔色が晴れない事を気にし、心配そうに眉尻を下げた。