第43章 対話
菫は突っ込んだ質問を出来ずに続く言葉を静かに待った。
杏「母が他界したのは弟がまだ物心つく前だった。なので弟には…、」
そこで言葉を切ると、杏寿郎は僅かに上げていた口角をスッと自然な位置に戻し、静かな表情を作った。
杏「…千寿郎には、母上の記憶はほとんど無い。なので本当の父上の記憶も薄い筈だ。」
(本当の…。)
菫は杏寿郎の頬の傷を思い出して少し眉尻を下げた。
杏寿郎はそんな菫を見ると優しく目を細める。
杏「知っていると思うが、父上は二年前、俺が炎柱になると共に鬼殺隊を引退した。だが、後半は任務にまで酒を持ち込み、指令を無視する事も多々あったそうだ。」
柱の噂は一般隊士と違って出回ってしまう。
菫は後半の情報についても知っていた。
杏「そして俺が炎柱になった時、いよいよ許せなくなったようで俺を家から追い出した。その後俺はお館様から頂いたあの屋敷で一人で暮らし始め、ボヤを起こして世話係を募った。」
杏寿郎はそう言うと初めて菫と出会った頃を思い出して少し頬を緩ませた。