第42章 恋仲
杏「………………………………。」
あれだけ見るまいとしていたのに、今度は目が離せなくなってしまった。
両手を顔の近くで緩く握り、少しだけ口を開いた様子は幼く見え、普段とのギャップが大きい。
そして小さな体が膨らみ、縮む毎に『すう、すう、』と小さく穏やかな寝息が聞こえ、杏寿郎は視覚と聴覚からダブル攻撃を食らってしまった。
しかし、長く見ているうちに温かな感情が生まれると、杏寿郎の体の緊張は解れていった。
杏(……愛らしいな。)
穏やかな微笑みを浮かべ、目を細めてそう思った。
怪我の都合上、横向きになって寝られない杏寿郎は首が痛くなるのを感じながらも菫を見つめ続けたのだった。
「……。」
菫は日暮れより一時間ほど前に目を覚ますと、視線の先の杏寿郎を見て固まった。
体は仰向けになっていたが、顔は此方に向いていた為に寝顔が見えてしまったのだ。