第42章 恋仲
杏「…………。」
諦めがついてほっと息を吐いた時、杏寿郎の心臓が跳ねる。
菫の方から音がしたからだ。
息を止めて急いで気配を探る。
杏(………ただ布団が擦れただけか。)
杏寿郎は肩の力を抜こうとしてハッとした。
『もしかして寝返りを打ったのでは。』と思ったのだ。
杏(いや、だが…、)
菫の寝顔を見たくなった杏寿郎は小さな寝息を聞きながら喉をごくりと鳴らした。
杏(許可も無く見て良いものではないだろう。)
そんな己を律する気持ちとは裏腹に瞼が開いてしまう。
それと同時に『彼女を知りたい。』という気持ちが益々大きくなった。
杏(…………駄目だ……。)
首が僅かに動く。
自制心は強い方だと自負していた杏寿郎であったが、今は『もっと鍛錬が必要だ。』などと考えていた。
首と共に視線も菫の方へ向ければ念願の寝顔は呆気無く見る事ができた。