第39章 無限列車―其の壱
その表情を見た魘夢は頬を紅潮させて嬉しそうに微笑む。
魘「それなのに君は捨てた。どうせ入っても役立たずの癖に隊士になって、妹を政略結婚の道具にして、空っぽの覚悟を敬愛で埋めて!ねぇ、今どんな気持ち?捨てた許婚に捨てた妹守らせて、敬愛だ覚悟だなんて言いながら本当はただ単に、」
魘夢を見る菫の呼吸は浅くなっていた。
魘「…下らない身勝手な恋心だけで家を捨てたんだろう?」
「…っ」
菫は無言で刀を振るった。
(ああ、どうして私はこんなにも弱いのかな…。)
刀はかすりもしない。
そんな剣筋を見て魘夢は不可解そうな顔をした。
魘「本当よく隊士になれたね。俺はすぐに挫折すると思っていたよ。感情の矛盾にも頑なに目を逸らし続けた。鬼殺隊へ入った本当の理由も思い出さなかった。無意識だったのかな?」
「…挫折して矛盾を認め、理由を思い出していたら何だったっていうの。」
魘夢の心底嬉しそうな顔を見れば、それが一番の楽しみであった事が嫌でも伝わってきた。
魘「いいよ、いいよ。見せてあげる。これが俺の描いた筋書き、素敵な悪夢。」
パッと魘夢が消え、立っていた筈の菫は再び蓮華と座って読書をしていた。
蓮「ねえ、お姉様。獅子様のお名前をもう一度教えて下さいませ。諦めたと仰っていたけれど本当はあの御方の元へ行くのでしょう?蓮華には教えて下さいな。」
菫はゆっくりと蓮華に目を遣る。
これは実際にあった会話だった。