第33章 誕生祝い
杏「まだあるぞ!」
そう言いながら玄関に上がると大股で自室を目指す。
菫は小走りをして杏寿郎についていった。
「わ……。」
杏寿郎が購入した櫛は決して高価なものではない。
小さな手にも馴染む、丸みを帯びた福利久型のシンプルな解かし櫛だ。
それでも菫は何故杏寿郎がそれを選んだのかを理解して嬉しそうに胸に抱いた。
「懐かしい…。あの櫛はお転婆な妹が壊してしまったので…。」
杏「………。」
杏寿郎は『それは良かった!』と言いそうになって口を噤んだ。
そんな杏寿郎を菫はじっと見つめ、何かを企むような珍しい笑みを浮かべた。
「髪をお梳き致しましょうか。」
杏寿郎の目が丸くなる。
『それは君が使う物だろう。』
『俺はもう子供ではない。』
真っ先にそんな言葉が頭に浮かんだ。
しかし杏寿郎は踏み止まってどれも言わなかった。
そして、にこっと笑う。