第32章 五年前の真実
その距離の近さに杏寿郎の頬が少し染まる。
杏「…重國さんは君が思うように怒ってなどいない。少しもだ。ちなみに俊彦さんもだぞ。」
杏寿郎が菫の顔から目を逸らしてそう言うと、菫は呆然としながら視線を落とした。
「俊彦さんまで…一体何が……。」
杏寿郎は菫が鬼についての心当たりを話さずに只々混乱する様を見て、菫が帰らずにいるのはやはり無意識からなのだと悟った。
杏「君があの家へ帰らずにいた訳を訊いても良いか。」
そう、試しに反応を見てみる。
すると菫は固まった。
「それは……家を出る時に…、いえ…家を出てから…覚悟をしたのです…煉獄様をずっとお慕いすると……。」
菫は自身の言葉に混乱した様子であった。
杏「分かった。もう考えなくて良い。」
杏寿郎は菫の妙な様子を見て思い出させてはならない気がした。
菫はそう許され、再び熱い手のひらで頭を撫でられると分かり易く脱力していく。
「………………………………。」
杏「…………。」
杏寿郎は完全に黙り込んでしまった菫を見下ろすと、気分を変えてあげたくなってきゅっと口角を上げた。