第32章 五年前の真実
杏「君自らが実家へ赴き、自分の力でご家族との仲を取り戻して欲しいと思っていたので君に伝えるつもりは無かったのだが、状況が変わった。」
菫は固まりながら聞いている。
杏「訳あってご家族と話した内容を全て君に話す訳にはいかないのだが、言伝を預かってきたので聞いてくれ。」
菫は呆然としながらも素直に頷いた。
その体は震えている。
杏寿郎は菫が怖がっているのだと察すると座布団から降りて近付き、腕の中に優しく収めた。
菫は抵抗せず、そんな杏寿郎の道着をぎゅっと縋るように掴んだ。
杏「………。」
杏寿郎は菫の行動に目を丸くした後優しく微笑み、菫の頭をそっと撫でた。
杏「まず蓮華さんからは相変わらず『会いたい、大好き』だと。前回同様、手紙にして貰ったのでこの後渡そう。」
「…前回…って……、」
菫は半年以上前に蓮華と知り合っていたのだと知って目を見開いた。
杏寿郎の熱く優しい手のひらが震える背中を擦る。
杏「晴美さんは『無事で良かった、健やかに過ごしてくれ』と仰っていた。晴美さんからも手紙を預かっている。」
菫の体はまだ震えている。
父親が何と言うのかが一番怖かったからだ。
杏「重國さんは…一番君の事を理解していらした。時間が無くて正式な言伝は得られなかったのだが、『今は難しいが、時が来たら必ず会いたい』と思われている筈だ。」
「………え…?」
菫は思わず杏寿郎の腕の中から至近距離にある杏寿郎の顔を見上げた。