第32章 五年前の真実
杏「只今帰った!!」
杏寿郎は任務から帰ると、急いで出迎えに来た菫を見つめながら羽織りを手渡した。
杏(蓮華さんや俊彦さんが言うように、菫さんは本当に俺に惚れていたのだろうか。)
杏「…出迎えご苦労!」
そう言っていつも通り頭を撫でる。
すると菫ははにかみながら微笑んだ。
杏寿郎はその表情を確かめるように頬を撫でると、少し体を強張らせた菫を抱き寄せる。
「………杏、寿郎様…如何されましたか…。」
緊張した声が聞こえた。
杏寿郎は菫の問いに答えず、ぎゅっと一度強く抱き締めてから菫を解放した。
杏「うむ!今晩もとても良い匂いがするな!」
菫は問い掛けに答えない杏寿郎を見ると、少し俯いた後に深々と頭を下げた。
(二ヶ月も経つのに、想いを告げられてから度々恥ずかしい態度を取ってしまう…。私は気にしすぎなのかしら…。)
菫は炊事場で膳を用意しながらぼんやりとそんな事を考えていた。
(あと一ヶ月で此処に来て一年になる。初めは…こんな事になるなんて……、)
そもそも男の振りをしていたのだ。
想像出来た筈もない。
(このまま…、これで良いんだっけ…何で…駄目なんだっけ……。)
そう思うと菫は手を止めて俯いた。