第32章 五年前の真実
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「杏寿郎様。」
寝る支度が整った菫は縁側から杏寿郎に声を掛けた。
杏寿郎は振り返るとにこっと笑って駆けて来る。
二ヶ月前の出来事を思い出した菫の肩が揺れた。
(何の御用だろう。いつも挨拶だけなのに…。)
そんな気持ちが顔に出ていた為、杏寿郎は面白がる様な笑みを浮かべた。
杏「少し話したい事がある!部屋に入ってくれ!」
「……はい。」
杏寿郎は菫にそれだけ言うと、適当な部屋の戸を開いて灯りを点けた。
杏「気構えずに座ってくれ!風邪を引くと思って場所を変えただけだ!」
杏寿郎がそう言いながら座布団を出すと菫は恐縮して頭を下げた。
「お気遣い感謝致します。」
菫が座ったのを確認すると、杏寿郎は口角を上げながら菫をじぃっと見つめた。
杏「西田という男がいるだろう!」
最初の言葉にしては破壊力があり、菫は目を見開いて固まってしまった。
杏寿郎は少し首を傾げる。
杏「君が雇っている情報屋のことだが…名前が違っただろうか。」
「い…………いえ、そうです…。」
『何故知っているのか。』など訊けなかった。
思えば常人より勘の鋭い杏寿郎が、自身の屋敷に近付く不審者に一年も気が付かない筈がないと気が付いたからだ。