第32章 五年前の真実
一方、杏寿郎の呆気に取られた顔を見た俊彦は咳払いをして少し恥ずかしそうな顔をした。
俊「ですが、今私は幸せです。蓮華さんとは随分と歳が離れていますがとても仲が良いのです。結婚を心から喜んでおります。そして、菫さんと炎柱様の幸せも願っております。」
俊彦がそう言って纏めると杏寿郎は気持ちを切り替えてパッと笑みを浮かべた。
杏「二人なら素敵な夫婦になれるだろう!そして菫さんとはまだ恋仲にすらなれていないがそう言って頂けると大変嬉しい!ありがとう!!」
その言葉に俊彦はぽかんとした。
ある予感から清水家の人間には伝えていなかったが、俊彦は杏寿郎の屋敷の住所さえもはっきりと把握している程に多くの事を知っていたからだ。
俊「しかし…、一年近くも一緒に住んで……、」
杏「ではそろそろ任務先へ向かわなければならない!!今日はこれで失礼する!!!」
杏寿郎はそう言うと地を蹴り、俊彦に大きな疑問を残したまま姿を消してしまったのだった。
―――
杏(…………。)
杏寿郎は道中、鬼に拐かされた可能性のある菫の言動について思い返していた。
考えればすぐにおかしな点が見つかった。
菫の頑なな敬愛心についてだ。
杏(彼女の敬愛は妙だった。『敬愛していなければならない。』とでも言うような強迫観念すら感じた。鬼の事が解決すれば、生涯俺を上官として慕うという姿勢を崩してくれるかもしれないな。)
そう思うと杏寿郎はきゅっと口角を上げたのだった。