第32章 五年前の真実
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杏寿郎は晴美に散々菫の居場所を訊かれたが、連れ帰ってしまうような気がして教える事が出来なかった。
蓮「私には教えて下さいな。」
見送りの際に蓮華がそう耳打ちした。
杏寿郎は困った様に笑う。
杏「菫さんの雇った男は口が固いのだな。」
蓮「ええ。少しの情報しか買わせてくれないわ。私が雇った者も撒いてしまうし…。ですのでお願いします。」
杏寿郎は食い下がる蓮華の頭をぽんぽんと撫でて宥めると笑いながら道へ出た。
晴「何をお話ししていたの?」
晴美にそう顔を覗き込まれると、蓮華はピンッと姿勢を正した。
蓮「な、何でもありません。」
杏寿郎はそのやり取りに明るい笑い声を上げ、二人に大きな目を向けた。
杏「では!終わっていない話もあるのでまた来ます!!重國さんにも宜しくお伝え下さい!!」
杏寿郎の明るい空気に二人もつられて笑顔になる。
晴「承知致しました。菫の話をしにいつでもいらして下さいね。」
蓮「お父様はすぐにお話ししたい筈ですわ…!なるべく近いうちにまたいらして下さいませ!」
杏寿郎は二人に向かって『うむ!!』と元気の良い返事をすると地を蹴った。
―――ダンッ
晴「…………見えた?」
蓮「消えたようにしか見えませんでしたわ……。」