第9章 早い帰り
杏「…そうだな!一時間後くらいだろうか!何故だ!!」
「いえ、その…大変だなと思いまして…。お疲れ様です。失礼致します。」
菫は慌てて頭を下げると『婚約者を待っている』という設定を忘れてその場を後にした。
杏寿郎はその後をこっそりと追った。
杏(あそこが彼女の家か。薬屋…だろうか。何はともあれ、無事に帰られて何よりだ!)
杏寿郎が藤井家に歩み寄りながら口角をきゅっと上げた時、中から少女の声がした。
照「菫お姉様!」
それに答える菫の柔らかい声も響いてくる。
杏寿郎はそれを聞きながら自身を見て身を竦めていた菫を思い出した。
杏(……菫さんというのか。可憐で彼女らしい良い名だ!)
そう思うと自身に向けた菫の固い表情を忘れるように勢い良く走り出した。
「こちらは蟲柱様からの手紙とお金でございます。」
菫が藤井夫妻に手紙と金を差し出すと、二人は急いで首を横に振った。
「お気持ちは分かりますが…。」
菫は迷った挙句、照子にそれ等を持たせた。