第29章 煉獄様の誕生祝い
「ありがとう御座いました。」
顔を上げると杏寿郎が太陽のような笑顔を浮かべて拍手をしていた。
食事をせずに聴いていたようだった。
食事も自身が提供した物であったが、菫は何となくそれを嬉しく思ってはにかむ笑顔を浮かべた。
杏「とても美しかった。君の気持ちもとても嬉しく思う。ありがとう。」
杏寿郎の声音は笑顔と異なり柔らかく、優しく、ほんの僅かに甘い。
以前は聞いてはいけない声だと感じていたその声を、その時の菫は好ましく思った。
そして、微笑みながら目を細めた。
杏寿郎はその笑顔を見ながらこれからもそうして微笑んでいて欲しいと思ったのだった。
―――
杏「…わっしょい!…わっしょい!!」
「……………………。」
菫は未だにこの言葉の意味を訊けずにいた。
しかし、何となく今日は近付いて良いような気がして、それが本当に良い事なのか悪い事なのかも分からないまま口を開いた。