第29章 煉獄様の誕生祝い
「煉獄様、お食事中に失礼致します。前々から気になっていた事があるのですが、お訊きしても宜しいでしょうか…。」
その言葉にさつま芋の甘煮を食べていた杏寿郎が、笑みを浮かべながら菫に顔を向けた。
杏「珍しいな!どうした!」
杏寿郎の言う通り、菫が食事中に声を掛けるのはおかわりを訊く時ぐらいであった。
菫は杏寿郎の真っ直ぐな瞳に見つめられると自身の質問が小さく思え、両手の指を絡めながら視線を落とした。
「その…………、わっしょい、とは…どういう意味なのでしょう……。」
ちらりと視線を上げると杏寿郎は少しきょとんとした後にパッと明るい笑顔を浮かべた。
菫の興味が嬉しかったのだ。
杏「わっしょいという言葉自体には深い意味は無い!!!」
それを聞いた菫は目を丸くして少し固まった。
「………では何故…仰るのでしょう…。」
杏寿郎の屋敷に来た時は仕事以外の質問など一切出来なかった。
それが今や続けて私的な質問をしている。
杏寿郎は考えるように少しだけ視線を斜め上に向けた後、菫を大きな目でじぃっと見つめた。
杏「そうだな、こう言うとより美味くなる!菫さんも食べる時に言ってみると良い!!」
「…より、美味しく……。」
菫はそう復唱すると素直に『はい。』と言って頷いた。
杏寿郎は菫の "わっしょい" を聞くにはまだ早いのだろうと思うと、少しだけ残念そうに笑ったのだった。