第29章 煉獄様の誕生祝い
杏「……では箏の演奏を楽しみにしている!!」
そう何事も無かったように明るく言い、何とか笑顔を浮かべる。
菫は杏寿郎の少し無理をした笑顔をよく見ないまま俯いて『はい。』と小さく返事をした。
「それではお食事の準備をして参ります。」
少し余裕が無いような声色でそう言うと赤い顔を隠すように襖を閉めた。
(私……何を…………、)
杏寿郎の部屋の前で膝をついたままそんな事を思って呆然となる。
しかし、あまりの事に頭が働かなくなりそうになると頭を振り、一度考えるのをやめる事にした。
(お食事を用意してお箏の為に気持ちを落ち着かせないと。今日の為に練習してきたのだから…。)
―――
「失礼致します。」
配膳が終わった後、菫は居間に入り直して箏の前に座った。
その顔はもう赤みを帯びておらず、杏寿郎もまた只々箏の演奏を純粋に楽しみにしていた。