第29章 煉獄様の誕生祝い
二人で同じ速さの心音を聞き合い、体温を分け合っていると、忙しない感情の他にも何とも尊く温かい気持ちが湧いてくる。
杏寿郎はその感情に満たされるのと同時に何かが乾くのを感じた。
何か言わなくてはならないような気もしたが、何と言えば良いのか分からない。
少し迷ってから菫の頭に頬擦りをしてみた。
すると前回とは異なり、菫は肩を跳ねさせるだけで抵抗しない。
杏寿郎は眉を寄せ、何かに耐えるように目を細めながら菫の髪に顔を埋めた。
菫の香りに杏寿郎の息が僅かに上がる。
頭が痺れ、こめかみには青筋も浮かんだ。
杏(……これ以上は…………、)
どんどん大きくなる『もっと。』という感情を抑え、杏寿郎は漸く菫を抱き締める腕の力を抜いた。
杏(…口付けは流石に言い逃れ出来ない。今度こそ出て行ってしまう。)
そんな事を思い、菫の髪に気が付かれないようにそっと口付けをしてから肩を掴み、優しく体を離した。