第29章 煉獄様の誕生祝い
一方、抱き締めてから自身の行いを自覚した杏寿郎は、菫が前回と違って大人しくしている事に目を丸くしていた。
杏(………。)
そっと体を離して顔を覗いてみる。
「…ぁ…………、」
菫は目が合うと俯いて杏寿郎の胸にくっついた。
杏「…………………………。」
今度は杏寿郎が動揺する番だった。
菫はただ赤い顔を隠したくてそのような行動を取ったのだが、杏寿郎からは胸に飛び込んできたように見えたのだ。
再び、恐る恐る腕を回してみる。
菫はそうされて初めて自身がどこに顔を隠したのかを自覚し、ビクッと体を震わせた。
しかし、自身からくっついた手前、胸を押して体を離すことも難しく感じた。
「………………。」
杏「…………………。」
杏寿郎は喉をごくりと鳴らすと回した腕に力を込め、もう一度しっかりと菫を抱き寄せた。
杏寿郎の大きな心音が菫の頬を熱くさせる。
(…煉獄様の心臓…壊れてしまいそう……。)
そう思う菫の脈も速くなっていた。
杏寿郎は小さな心音が随分と速くなってしまっている事に気が付くと、目をぎゅっと瞑って更に強く抱き締めた。