第29章 煉獄様の誕生祝い
「煉獄様…今お時間宜しいでしょうか。」
杏寿郎が昼に起きてすぐ、菫は少し緊張した珍しい声色で杏寿郎の部屋に声を掛けた。
するとすぐに襖が開く。
杏「どうした!何か困っている事があるのなら遠慮せずに言ってくれ!」
着流し姿の杏寿郎は隊服を着ている時より柔らかい空気を身に纏っている。
菫は杏寿郎にそう心配そうに言われると、廊下に膝をついたまま体の前で両手を握った。
「お誕生日おめでとう御座います。そのお祝いとして、お粗末ですが、昼餉の際に箏の演奏をお贈りしたいと思ったのですが…聴いて頂けますでしょうか…。勿論、静かにお食事なさりたければ、」
杏「是非聴かせて頂きたい!!!」
菫は杏寿郎の食い付きの良さに目を丸くした。
そして、ふわっと花咲くように微笑んだ。
杏「…………。」
その時、杏寿郎は勿論その笑顔に驚いたし、とても嬉しく思った。
他の誰に対しても菫がそこまでの笑顔を浮かべた事がなかったからだ。
だが、何よりもそれを見たのが初めてではない事を思い出して衝撃を受けた。