第29章 煉獄様の誕生祝い
「……行ってらっしゃいませ。」
菫は自身の声が震えてしまった事に頬を熱くさせ、眉を寄せた。
杏寿郎はそんな事には気付かず、体を離して菫の様子を窺う。
杏「…………。」
そして、眉を寄せながら顔を赤らめる菫を見て期待に胸を膨らませた。
杏「…急にすまなかった!お陰で今日の任務も上手くいきそうだ!!」
「………………任務が、ですか?」
菫はまだ頬を赤くさせながら、少し幼く見える不思議そうな顔をしていた。
杏寿郎はその珍しい様子を愛らしく思い、にこっと笑いながら頭をぽんぽんと撫でた。
纏う雰囲気はいつもの杏寿郎の物だ。
杏「うむ!君に触れると活力が湧く!!」
それを聞いた菫の顔から赤みが引いていく。
そして、代わりに瞳が輝いた。
杏寿郎はそれを口角を上げて見つめながら自身が失言をしたのだと悟った。
「では毎日抱き締めて下さいませ!」
その言葉と共に甘い空気が消え去る。
杏「…………。」
杏寿郎は笑みを浮かべながら大きな目で菫を見下ろした。
そして無言で再び菫を抱き締めた。
菫は杏寿郎の任務が上手くいくようにと願いを込めて抱き締め返す。
すると、とうとう杏寿郎の顔から笑みが消えてしまった。