第29章 煉獄様の誕生祝い
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杏「では行ってくる!!」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ。ご武運を。」
菫が黙ってされるがままになった日の翌日、二人は相変わらず同じやり取りをしていた。
そのやり取りに問題は何も無かった筈だったが、杏寿郎は口角を上げながら菫を見つめて出発しない。
「………あの、」
杏「抱き締めても良いだろうか!!」
菫は突然の事に固まった。
杏寿郎は答えを待たず、門のすぐ前に立っていた菫の手を汗ばむ手で掴み、玄関前まで連れて行った。
「で、ですが、」
杏「君も無事を祈って抱き締め返して欲しい!」
そんなずるい事を言うと杏寿郎はぎこちない笑みを浮かべながら菫を抱き締めた。
「…………。」
杏寿郎は菫の体の柔らかさと華奢さに喉をごくりと鳴らし、菫は杏寿郎の熱い体温と力強い鼓動に瞳を揺らした。
杏寿郎の吐く息が震える。
鼓動が速くなり、それが菫に伝わってしまうのではと思うと頬に汗が伝った。