第8章 可愛がること
(早く杉本様の元へ行かないと…。炎柱様は何時にお帰りになられるのかしら。あと一時間もしないうちに日が暮れる。)
そう思うと菫は杉本が使っている病室を探した。
―――
杉「よう。来たのか。」
行かなければどうなるのかを教え込ませた本人がそんな事を言う。
それでも菫はただ素直にパッと頭を下げた。
そしていつもの気丈な表情を浮かべて顔を上げると杉本は途端に機嫌を欠いた。
杉「…腕を傷めてるんだ、お前が此方に来い。」
そう言われると菫は大人しく杉本が座るベッドに歩み寄って行った。
―――ドタンッ
「………はっ、はっ、」
室内にはひたすら菫を侮辱する杉本の声と菫の浅い息が響いていた。
菫は床に転がると息を整えながら蹴られた脇腹に手を遣る。
(出来ていた痣に当たってしまった…。)
杉「声出せよ。」
不機嫌な杉本の声が降ってくる。
杉本が菫を "可愛がっている" 間、菫は声を出した事がない。
それ故にこの行いについては、圭太やしのぶを含む誰もが気が付いていなかった。