第1章 事の始まり
圭「すまん、安易に言って…。当然だが炎柱様は男を希望されている。」
「あ……。」
菫は肩を落としながら自身の体を見下ろした。
「……男性の振りは…出来ないかしら…。」
聞き分けが良く素直な菫がそのような困らせる事を言った為、圭太は参ったように眉尻を下げた。
圭「分からないが、炎柱様を騙す形になっても良いのか。」
「恐らく炎柱様が男性を指定したのは色恋の話に発展させない為でしょう。私は炎柱様をその様な目で見た事がない。それなら私も男性と変わりありません。いえ、男性です。」
圭「男ではないぞ、間違いなく。」
圭太はそう言いながらも『炎柱様の方も絶対に妙な気は起こさないだろう』と考えていた。
「圭太さん…。」
縋るように名を呼ばれると圭太は眉尻を垂らして呆れたような笑みを浮かべた。
圭「分かられてしまったら俺も一緒に頭を下げてやる。俺の為にも上手くやれよ。」
「はい!!」
そう元気良く返事をすると、菫は宣言通りに手早く荷物を纏め、圭太と其処の主人以外の誰にも挨拶をせずに蝶が舞う屋敷を飛び出したのだった。