第26章 逃避
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(……どんなに尊くても煉獄様も人の子…。失念していたけれど、まだ多感なお歳だったんだ。このまま女の私と住んでいたら…夕方のような勘違いをなさってしまう。)
「煉獄様、お話があります。」
杏寿郎の箸が止まったところでそう切り出した。
杏寿郎は菫の真剣な瞳を見ると静かに箸を置く。
杏「何だろうか。」
菫はそう言われてやっと視線を上げた。
「夕方の事でお話があります。その…、私の手を、」
杏「そういえば宇髄は忍らしいぞ!今度機会があったら忍術を見せてもらおう!!」
杏寿郎は菫の瞳を見て『今言わせてはならない。』と直感した。
一方、菫は弱ったように俯いて太腿の上にある拳をぎゅっと握った。
(どうしよう…。わざと言わせないようにしていらっしゃる…。)
杏寿郎の直感は正しかった。
手を握ってきた杏寿郎をどうしても忘れられなかった菫は、圭太に仕事を引き継いでもらおうと決心していたのだ。