第26章 逃避
(…………………………。)
―――ゴンッ
「ぅぐッ」
ぼーっとしながら廊下を歩いていた菫は行き止まりの壁で鼻を打ってしまった。
「……しっかりしないと。洗濯物を取り込んでお食事を作らなくちゃ。」
菫は鼻から手を離すと両頬を強く叩く。
そして杏寿郎に手を握られた事を思い出さないようにしながら庭へ降りた。
―――
「よし。後は…、」
洗濯物を畳み終わって息をついた時、気が緩んでしまった菫の頭に杏寿郎の真剣な顔が浮かんだ。
「……。」
燃える瞳を思い出すと途端に顔が熱を持つ。
「でも…煉獄様がそんな事…そんな筈は…、」
『嫌だろうか。』
記憶の中の杏寿郎がそう訊く。
菫は先程と同様に何も答えられない。
『今はただ側に居てくれ。』
「……………ただ…側に…。」
菫は小さく呟くと口をきゅっと結び、畳んだばかりの杏寿郎の洗濯物を抱えて部屋を出た。