第26章 逃避
男「た、助かった……。」
杏「うむ!五体満足だな!!何よりだ!!」
その明るい声に男はハッとして杏寿郎を見上げる。
男「あ、ありがとう!甘い匂いを嗅いでから記憶がないんだよなぁ…。お前は平気なのか?」
眼力はあるものの、まだ十代であどけなさが抜け切らない杏寿郎は、柱らしい雰囲気や迫力が欠けていた。
天元は明らかに弱そうな隊士に、同等かそれ以下の扱いをされても全く気にせず会話を続ける杏寿郎を見て眉を寄せた。
天「なるほどな。お館様が俺を見ろって言ったのは戦い方だけじゃなかったのか。」
そう呟くと二人の元へ歩を進める。
天「おい、前髪。そいつ新入りとはいえ柱だぞ。煉獄も少しは威厳を保て。」
そう言われると隊士は一拍遅れて『はしら!?』と目を丸くした。
杏「それよりも彼の話だと共に十人屋敷へ入ったの事だ!袋を裂いて回るぞ!!」
天「あっ、お前…、」
天元は確かに人命第一だと思い直すと溜息をつきながら袋に刀を向けた。
天「いいか!何も俺は威張り腐れって言ってんじゃねぇんだよ。だが、柱の印象は俺達が作り変えて良いもんじゃねぇ。その風格を守って、俺達が合わせていかなくちゃなんねぇんだ。…分かるな?」
天元の確認に杏寿郎は口角を上げながら頷いた。
杏「うむ!威厳を保ち、柱の風格を損なわないよう励む!!では鬼の本体を探そう!!」
杏寿郎はさくっと話を終わらせると、天元が呆気に取られている間に負傷した隊士達を隠に任せて森の中へと進んだ。