第26章 逃避
杏「…惨いな。」
まだゆらゆらと動いている蔓の先には人一人入れるほど大きな袋がある。
天元が裂いたであろう袋の下には皮膚と内臓を途中まで溶かされた元隊士が横たわっていた。
それが隊士だと判別できたのは日輪刀も一緒に出てきたからだ。
杏(この隊士はとっくに事切れている。では人の気配とは…、)
杏「宇髄。」
天「ああ、まだ居る。こっちだ。」
鬼から独立して動く植物のような物を確認した二人は更に奥へと進んだ。
杏「今声がしたぞ!」
杏寿郎がそう言うと天元は目を三角にして『分かってるっつの!!』と言った。
天「この部屋に鬼は居ない。居るのは隊士だけだ。」
そう言ってスッと襖を開ける。
その部屋は圧倒される程に植物が生い茂っていた。
東南の森のような其処にはやはり蔓が広がり、袋のような奇妙な物が沢山ぶらがっている。
それのうちの一つが明らかに元気に暴れていた。
『おーい!だれかぁーっ!助けてくれー!!』
その言葉を聞いた天元は『なんか助ける気が失せる声してるな。』と言い、杏寿郎は対照的に飛び出していった。
天「あ!お前は後ろだって言っ、」
杏「だがあと一秒で表面を溶かされるかも知れないだろう!!」
杏寿郎が中身を避けて袋にパパッと切れ込みを入れると、無駄に良いキューティクルの前髪を持った男性隊士がでろんと裸で出てきた。