第7章 蟲柱、胡蝶しのぶ
杏寿郎の事を思い出すと菫は杉本の事などどうとも思わなくなった。
それと同時に圭太が歩みを止める。
圭「今は此方で薬学の本をお読みになられている筈だ。じゃあ俺は仕事に戻るぞ。」
「はい。ありがとうございました。」
菫がそう言って軽く頭を下げると、圭太はその頭をぽんぽんと撫でて『無理すんなよ。』と言ってから立ち去った。
「無理なんてしていないわ。」
菫は圭太の後ろ姿にそう呟くと扉に向き直った。
「蟲柱様、頼まれていた物をお持ちしました。お手隙の際にお声掛け下さいませ。」
菫がそう言うと程なくして扉が開いた。
し「私が忙しかったら、そうやって何時までも立っているつもりだったんですか?」
そう言って蟲柱様、胡蝶しのぶは困った様に笑った。
そんなしのぶに菫はパッと深く頭を下げた。
「私の時間と蟲柱様の時間とでは重さが違いますので。」
し「相変わらずですねえ。まあ、言っても無駄でしょうからこの話はここまでにしましょう。中に入って下さい。」
しのぶは笑みを絶やさなかったが、菫はそれが偽りの物だと悟っていた。
その上で指摘された低姿勢を続けるのだから質が悪い。