第6章 杉本という男
圭「大丈夫か…。杉本様が鬼狩り様だからってここまで我慢する必要は無いんだぞ。」
「いえ、大した事はされていません。」
頑なに頼ろうとしない菫を見つめて圭太は困った様に眉尻を下げた。
圭「蟲柱様の所へ行くんだろう。送るぞ。」
菫はこれには素直に頷いた。
菫を粗雑に扱った杉本という男は乙(きのと)、つまり上から二つ目の階級の鬼殺隊士であり、柱程ではないが隠が丁重に接している人物の一人であった。
しかしその素晴らしい剣技に反して性格には難が有り、丁重に接しつつも彼を慕っている隠は一人も居なかった。
そんな杉本が菫に目を付けたのは彼が鬼殺隊に入って間もない頃。
三年前であり、まだ杉本が癸(みずのと)であった時だ。
彼は所謂、加虐嗜好の持ち主で、人を屈服させる事で満たされる人間であった。
それ故に堂々とした態度を崩さない菫が気に入らなかったのだ。
菫は圭太の後ろを歩きながら脇腹を擦る。
(『可愛がってやろうか』と仰られた。消えていない痣の上を踏まれれば痛むだろうけれど…、)
口をきゅっと結ぶと擦っていた手を止めて風呂敷を両手で持ち直した。
(…今までの経験上、きちんと私から赴かなければ次に会った時に長引いてしまう。炎柱様の屋敷を長い時間無人にしたくはない。)