第25章 大きな一歩
杏「そうか。何と書いてあったのか訊いても良いだろうか。」
杏寿郎が穏やかな柔らかい声音でそう問うと菫は素直に頷いた。
「…妹が幸せな結婚をする事が出来ると書いてありました。私は…私の許婚を妹に押し付けて家を出てきたのです。何も言わずに…。」
並々ならぬ覚悟を抱いて鬼殺隊へ入った菫であったが、家を出た事を思い出すとぐっと眉を寄せた。
そしてまた涙が一筋流れてしまう。
杏寿郎はそれも綺麗に拭うと、今度は優しく頭を撫でた。
杏「では…、今度は君の番だな!」
「…………………え……?」
菫はきょとんとしてしまった。
杏寿郎は撫でる手を菫の頬へ恐る恐る滑らせる。
杏「君が自責する必要はもう無いのではないか。」
菫の瞳が揺れる。
「…それは……出来ません…。」
そう答えるような気はしていたが、それでも杏寿郎は僅かに眉尻を下げた。
杏「…他に理由があるのか。」
菫は優しく訊く杏寿郎に真っ直ぐ意志の強い瞳を向ける。
「家を出てから決めたのです。私は私の人生を鬼殺隊に捧げ、生涯煉獄様を慕い、目標として生きていくと。他の男性に現を抜かすなど、考えられません。」
杏「……それは…生涯俺だけを慕うというのなら、」
―――『自分と夫婦になる他無いのではないか。』
菫が抱いているのはそういった感情ではない事を失念し、思わずそう言いそうになった。
菫は首を傾げながら杏寿郎の続く言葉を待った。
しかしなかなか続きを口にしない。