第25章 大きな一歩
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「……そんな、」
菫は杏寿郎に『急ぎかも知れないのでやはり今読んでくれ!』と言われた手紙を読んでいた。
勿論、玄関に落ちていたのではなく蓮華に直接渡された物だ。
菫は送り主こそ明記されていなかったものの、それが妹からである事をすぐに悟り、片手を口元に寄せて瞳を震わせながら読んでいた。
その手紙には、今自身がとてもとても幸せである事、手紙を受け取る人にも幸せになって貰いたい事が簡潔に書かれ、最後には『会いたい。』とも書かれてあった。
菫は決して長くはない文を何度も何度も読み返した。
杏「……。」
杏寿郎は立ち上がるとそんな菫の側に寄って膝をつき、流れっぱなしになっていた涙を拭ってやった。
「あ……す、すみません。」
菫は杏寿郎に拭われて初めて自身が涙を溢してしまっている事に気が付いた。
菫が恐縮し、少し下がって自身で拭おうとすると、杏寿郎は片膝を進めて空いた距離を詰め、再び熱い手で涙を優しく拭った。
「…………。」
そのような事をさせてはいけない相手であるのに、今度は拒めなかった。
「……妹からだったんです。実は妹とはずっと連絡を取っていなくて…、突然でびっくりしてしまって…。」
菫はどうして妹が自身の居場所を突き止めたのかは分からなかったが、噂ではなく蓮華本人から『今の許婚と結婚出来る事に幸せを感じている。』と言われ、胸がぎゅうっとなる程に嬉しく思った。