第21章 右腕の代わり
し「まあ、煉獄さんの事ですから純粋に力量不足だったという訳では無いのでしょうけれど、何にせよお体は大事になさって下さいね。清水さんも心配されますし。」
しのぶの口から菫の名が出ると、杏寿郎の表情は口角を上げたまま固まった。
その様子にしのぶは口を手で押さえて少し楽しそうな表情を作った。
し「あら…、一週間ちょっとで何が起きたのでしょう。宇髄さんがけしかけたからでしょうか。」
杏寿郎は一週間半前のようにすぐ否定出来なかった。
それを見て、半分冗談で言ったしのぶも固まる。
し「……ご自覚、されたんですか?」
そう問うと、杏寿郎はやっと不自然な表情を崩した。
杏「認める訳にはいかない。清水はそういった物を遠ざけている。俺がそう意識しているなどと知ればもう口も利いてくれないかも知れない。」
し「それは…どうでしょう。」
確かに、菫に妙な事を言って近付いた者はもれなく菫から距離を取られた。
しかし、菫にとって杏寿郎は特別だ。
それは菫に距離を取られないという保証にはならなかったが、それでも必ず距離を取るとも断言出来ない程大きなものであった。
杏「そもそも彼女はどうしてああいった価値観を持つようになったのだろうか。」
杏寿郎がふと思い付いてそう呟くと、大体の事情を知っていたしのぶは口を結んだ。
それを見て杏寿郎もしのぶが何かしら知っている事を察する。