第21章 右腕の代わり
透「すみません…すみません…っ」
涙を溢す透を見て杏寿郎はにっこりと笑みを浮かべた。
杏「今後に活かしてくれればそれで良い!!見ての通り出血もしていない!気にするな!!」
そう言われて杏寿郎を見上げると、確かに血は流れていなかった。
透は首を傾げたが、すぐに頷いて礼を言いながら頭を下げた。
一方、同じく役に立たなかった哲夫も項垂れていた。
そして、杏寿郎が呼吸で止血している事も察していた。
哲(なんて出来た人なのだろう。)
そう思うと杏寿郎の明るい笑顔を見て、情けなさやら尊敬の念やらで心の中がぐちゃぐちゃになった。
哲「蝶屋敷までご一緒させて下さい…。」
哲夫は自身のせいで杏寿郎が大きな怪我を負ったと知らない透を先に帰らせ、自身は杏寿郎にくっついて蝶屋敷へ向かった。
―――
し「あらあら。一週間半振りですね、煉獄さん。そのお怪我はどうされたんですか。」
しのぶは『珍しいですねえ。』と言いながら杏寿郎を診察室の椅子に座らせる。
杏寿郎は付いて来てくれた哲夫に笑顔で礼を言って帰らせた。
杏「うむ!少々梃子摺ってしまってな!俺もまだまだ未熟だ!不甲斐ない!!」
口角を上げながらハキハキとそう言うと、しのぶは『そうですかー。』とあまり聞いていなさそうな返事をした。
一方、杏寿郎の受け答えを戸の向こうで聞いていた哲夫は『やっぱり部下を庇ったとは言わないんだな。』と思いながらその場を後にした。