第21章 右腕の代わり
哲「高橋!せめて構えろ!!」
杏寿郎は木が近過ぎて思い切り刀を振るえなかった。
杏「…っ」
鬼の後ろ、開けた場所をちらりと見ると、杏寿郎は無理矢理に鬼を刀でそこまで押し出した。
そこで首を斬ろうとして一度刀を離すと、鬼は再び逃げようとする。
杏(これは随分と速いな。)
杏寿郎は次こそ首を斬ろうとそれを追った。
しかし―――、
哲「戻れッ!!!」
己を奮い立たせて役に立とうとしたのか、透が近寄ってきてしまっていた。
それも杏寿郎より鬼の方に近い。
鬼が透の方を向く。
杏「刀で受けろ!!手を封じれば、」
杏寿郎はそう助言しようとしたが、出てきたものの足が竦んでしまった透を見てすぐに地を蹴った。
鬼が手から風の刃のようなものを発生させる。
防ぐこと叶わず、もう放たれてしまったそれは透の首を狙っていた。
杏(速い!!俺も刀で受ける事は困難だ!だが、俺ならば自身で止血できる!犠牲が出ずに済む!!)
そう思うと刃と透の間に入っていた。
透まで距離が離れていた為に刀を構える余裕は無く、杏寿郎は右腕から肩にかけて深い傷を負った。
そして、速さだけなら柱にも引けを取らないと自負していた鬼は、一瞬で目の前に来てしまった杏寿郎を見て青ざめた。
杏「厄介な鬼だった。」
杏寿郎はそう言うと、技も出さずにスッと刀を左腕で横に振り、呆気無く鬼の首を落としたのだった。