第21章 右腕の代わり
杏寿郎は菫が風呂の湯が沸いたと言うと、刀を納めて体を清めに行った。
そして、風呂を出て自室で髪を乾かそうとしていると、今度は朝餉の支度が整ったと知らされた。
杏「すまない、まだ時間が掛かるので待っていてくれ。」
「畏まりました。」
杏寿郎はクセ毛をタオルでわしわしと拭き、少ししてから居間へ向かおうと廊下へ出た。
しかし、すぐに足が止まる。
杏「……。」
気配を感じ、眉を寄せて見つめた先は玄関。
杏寿郎は居間へは行かず、すたすたと廊下を進んで玄関の戸を開いた。
―――ガラッ
そして、薄く口を開いたまま固まった。
玄関には雪かきをする菫がいたのだ。
菫は杏寿郎に気が付くと慌てて姿勢を正す。
「申し訳ございません!すぐに配膳致します!」
菫はそう言って何も答えない杏寿郎に礼をしてから炊事場へ急いだ。
杏寿郎の見つめる玄関の雪かきは殆ど終わっており、杏寿郎が菫を女性扱いした事も無かったことにされていた。
勿論、菫は杏寿郎が自身を女性扱いして雪かきをしなくて良いと言ったのだとは夢にも思っていなかったが、杏寿郎は菫に線引きをされてしまったように感じた。
杏「…朝餉を食べよう。」
そう呟くと玄関の戸を閉める。
きっと何を言っても菫は隠として、鬼殺隊士として、自身の仕事を全うするのだろう。
鬼殺隊士として、自身に接するのだろう。
そう思ってしまった。