第21章 右腕の代わり
杏「…清水――…、」
杏寿郎は頭巾を外して雪かきをする菫を隠として見れず、『女性はそんな力仕事をしなくて良い。』と言いそうになった。
息は上がり、菫が速い呼吸を繰り返す度に真っ白な華が咲く。
菫の涙を見て、上がる息を見て、感情をあまり見せない彼女の人間らしさを見付けた。
それでも菫は靡かない。
杏寿郎はそれを分かっていた。
杏「清水!」
きちんと声を掛けると菫は振り返り、ふぅと大きく白い息を吐いた。
「はい。如何致しましたか。」
相変わらず淡々としている声色を聞いた杏寿郎は、笑顔を浮かべながら菫に歩み寄った。
杏「今晩の任務なのだが特別遠いそうだ!待たずに寝ていて構わない。食事だけ頼む!炊事場に置いておいて貰えれば勝手に食べるので気にしないでくれ!」
「はい。畏まりました。」
頭を下げて返事をすると、去らない杏寿郎を見て菫は少しだけ首を傾げた。
杏寿郎はそんな視線に気が付くと口角だけをきゅっと上げる。
杏「…雪かきはもう良い。風呂と朝餉を頼む。」
「……はい。」
菫はまだ雪かきが終わっていない玄関をちらりと見たが、素直に返事をすると屋敷へ入って行った。
天元の顔がちらつく。
あの日、天元にはっきりと言葉にされてから意識するようになってしまった気がしていた。