第20章 触れる理由
照「新聞の探し人の欄にお姉様と同じお名前が毎日載っているんです。でもご職業は書かれてても何故か名字は載っていなくて…。もしお姉様なら…、あの、菫お姉様のお父様って…特高関係のお方だったりしますか…?」
問われた菫の表情が完全に固まった。
それを見た照子の頬にも汗が伝う。
照「え、まさか、でも…、特高警察の清水様と言えば…、指揮官の、内務官僚の…、」
「失礼致します。」
菫は薬草を風呂敷に詰め直すとバッと礼をして踵を返した。
その堅苦しい礼と動きは、まるで国の為に働く父親を真似したかの様だった。
菫は道に出てきた照子が後ろから呼んでも振り返らなかった。
(もう藤井家にも寄らない方が良いかも知れ、)
照「菫お姉様ー!菫お姉様あー!!家出をしている菫お姉様ーっ!!!」
照子の思わぬ攻撃に菫は急いで引き返した。
照「ああ、良かった!取り敢えず中へ入って、くだ、さい、なっ」
「あの、」
菫は照子に背中を押されるまま店に入った。
「困ります。見付かれば私は…、」
照「私だってお姉様に会えなくなる事なんて望んでいません!」
よくよく見ると、照子も怒っているようだった。
その気持ちを理解出来なかった菫は困った様に眉尻を垂れて首を傾げる。
照「どうしてお話の途中で出て行ってしまわれたのですか?」
普段とは違う照子の様子に菫は少したじろいだ。