第20章 触れる理由
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「煉獄様、お風呂の用意が整いました。」
「煉獄様、お食事の用意が出来ました。」
「煉獄様、今日の華は如何致しましょう。」
杏寿郎が新鮮に感じる一方、菫は慣れた呼び名にとても満足していた。
杏寿郎は炎柱になってまだ日が浅い。
菫はそれまでの四年間、ずっと杏寿郎を煉獄様と呼んできたのだ。
杏(やたらと名を呼ぶようになったな。)
杏「そうだな、黄色い華にしてくれ!」
「畏まりました。」
これから眠る杏寿郎は今更になってハッとした。
杏「君、いつも街へ行く時はどうしている。きちんと頭巾を被っているのか。君の場合、顔を晒しては危険かも知れないだろう。」
杏寿郎は鬼殺隊を辞める際にも一悶着あったという杉本の事を思い浮かべていた。
その事について失念していなかったのか、菫は表情を変えなかった。
「最近は隠の隊服で出歩くと不気味がられてしまう事に気が付き、着物姿で街に出ています。ですが、信用している店に入るまでは笠を被っております。私は家出をしているので、両親が血眼になって探しているのです。誇張せずに申し上げると杉本様…杉本元隊士より恐ろしいです。」
それを聞いて杏寿郎は菫の生い立ちについて何も知らない事に気が付いた。