第20章 触れる理由
杏「先程、俺を炎柱様と呼ばなかったろう!とても好ましく思った。家の中では炎柱ではなくただの煉獄杏寿郎でいたい!」
杏寿郎の明るい笑みが本物であることに菫は首を傾げた。
一方、赤い目でぼーっとし、珍しく受け答えしない菫を見た杏寿郎は少し楽しそうな表情を浮かべた。
杏「名で呼んでくれないか。」
もう一度頼むと、菫は喉をごくりと鳴らしてから頷いた。
「煉獄、様。」
杏寿郎は少し目を見開いた後、残念そうに笑った。
"名" とは、ただの "名前" ではなく、姓名の "名" のつもりだったのだ。
杏(いや、十分だ。)
下の名で呼ばせてしまえば踏み込み過ぎて止まれなくなってしまう気がした。
結果的にではあったが、杏寿郎は踏みとどまれたのだ。
杏「ああ。改めて宜しく頼む!」
そう言った杏寿郎の顔にはきちんとした笑顔が浮かんでいた。