第20章 触れる理由
そんな何も進まない日々が更に一週間続き、菫が男装を止めてから二週間、屋敷で働き始めてから三ヶ月が経った。
その日、杏寿郎は『早く任務が終われば母の墓参りをし、そのまま実家に寄る。』と言った。
菫はてっきり泊まってくるものだと思っていたが、杏寿郎は頬に切り傷を負って早々に帰ってきた。
以前、『父に鬼殺隊を辞めなければ家の敷居を跨がせないと言われた。』と聞いていた為、菫は何があったのかを察し、ただ黙って頬に薬を塗った。
杏「ありがとう。君の薬ならすぐに治ってしまうな!」
杏寿郎はそう言って明るく笑った。
この様な時にも明るい杏寿郎を見て胸が痛んだ菫は、 "炎柱様" を "煉獄杏寿郎" として見てしまいそうになった。
これ程までに一族の使命を全うしようとしている人を何故否定するのか。
菫はそれが理解出来ない。
右手を痛む胸に当てて隊服をぎゅっと握ると杏寿郎の姿が滲んだ。
杏寿郎は目を見開いていたが、菫にはその様子がよく見えなかった。